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小笠原簡易裁判所 昭和34年(ろ特)2号 判決 1960年8月02日

被告人 赤志正蔵 外一名

主文

被告人淡路一朗、同野田幸雄を各罰金一〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、二五〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

右被告人等に対し、公職選挙法第二五二条第一項の規定を適用しない。

訴訟費用中証人小池辰郎に支給した分は被告人淡路一朗の、証人飯窪三千雄、近藤金吉、神沢浄に支給した分は被告人淡路一朗、野田幸雄の負担とする。

被告人赤志正蔵、同野田幸雄に対する公訴事実第三のポスター掲示の各事実はいずれも無罪。

理由

一、犯罪事実 二、証拠 三、適条(略)

四、無罪理由

被告人野田幸雄、同赤志正蔵に対する公職選挙法第一四三条違反の起訴事実の要旨は次のとおりである。

同被告人等は共謀して、法定の除外事由がないのに昭和三四年一月三〇日頃甲西町刑沢二〇七番地先落合トンネル東側入口附近に「二月一日は県政八年の大掃除」と朱書印刷したポスター(縦一七糎五粍、横二三糎七粍)を三枚掲示した外、外五個所に同様ポスターを貼付掲示した。

当裁判所はこの事実はいずれも無罪とするものである。その理由は次に述べるとおりである。

一、公職選挙法第一四三条の行為は同法第一三章に属し選挙運動のためになされなければならない。

選挙運動とは特定の議員選挙につき、特定の議員候補者を当選せしめるべく投票を得若しくは得しめるにつき直接又は間接に必要且つ有利な周旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為を汎称するものであること判例(大審院昭和三年一月二四日判決)に示すとおりである。

二、本件についてみると、右被告人等の行為は主観的には小林信一候補のためにその当選を目的としてなされたことが同被告人等の司法警察員に対する供述調書によつて認められるけれども客観的に右行為が同候補のために投票を得若しくは得させるために直接、間接を問わず、必要且つ有利な行為であつたとは認め難い。何となれば、確かに右掲示行為はいわゆる選挙運動期間中になされたものでありその掲示は甲西町内各部落に点在し一般民家の塀壁又は電柱などに貼付され、中には前記候補の対立候補である天野久の法定選挙ポスターの上又は横に重ね又は離して掲示されたものもあることが認められるけれども前記客観的要件事実の有無はポスター掲示によつて選挙人一般の内心に特定候補のために投票をしようとの意欲又は少くとも、特定候補に対する投票に関し内心に誘惑を感じたか否かを一般選挙人を基準としてこれを判断すべきである。

この基準から判断する限り「二月一日は県政八年の大掃除」とのポスターの意味は、前記天野久が二期八年の知事を勤めていること、その八年の大掃除をするのが二月一日の知事選挙であることを訴えたもので且つこの域を出るものではない。選挙が従前の政治の批判を前提とすることは明白な事実であつてそれを平易に「大掃除」と表現することは至極自然な言葉である。その上同ポスターには右以外の記載例えば小林信一候補を支持する団体組織等の表示はない。

故に、右ポスターを見たからといつて、一般に選挙人の内心に特定候補に対し投票をしよう又はするまいとの誘惑を覚える迄には至らないと考える。それが中にはたまたま対立候補である天野久の選挙ポスターの上又は横に掲示されていても右の判断には影響を及ぼさない。

以上の理由により、右被告人等のポスター掲示行為はいずれも客観的に、選挙運動のためになされたものではないことになるので無罪である。刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 三枝信義)

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